『カエルの楽園』ブックレビュー
カエルの楽園――なんとも楽しそうなタイトル。
なんの予備知識もなく手にとった私は、表紙の先に広がる世界にワクワクしながら本を開きました。
読み始めるとなんともカエルが主人公の蛙の世界のお話。
子どもの頃、童話を読んだ時のような懐かしさを覚え、思わず頬が緩みます。
しかも初っ端から悪役が出てきて、主人公はひどい目にあい、住みやすい世界を求めて旅に出る――。
童話にはこういうのあるあるだよね。穏やかな心で読めるけど、なんだか子ども向けだと少々拍子抜け。
しかし、読み進むうちにたちまち青くなりました。
この本は、重大な警鐘を鳴らしているのだと。
平和ボケして、もはや状況判断力では世界標準から取り残され、目の前の危機を説明されても理解できない――
カエルたちの住む国、ナパージュこそ現代の日本なのだと百田氏からの渾身のメッセージ。
今の日本を取り巻く国際情勢、外交問題を蛙の世界を借りて表現している寓話なのだ。
ページを繰るたび、次の展開はどうなるんだろうと考えをめぐらせ、ワルグラの処刑にはドキリとし、蛙が木につるされた挿し絵には、イラストであってもショックを受けた。
残ったハンニバル兄弟、二人への扱いとその死にはカエルの物語でも涙が出そうなほど衝撃を受ける。
ナパージュが滅んだあと、「三戒は宗教みたいなものだった」と振り返る。
考えることをやめてしまっている状態、無条件に信仰していたのだ。
本書は、カエルの物語の体裁を借りているため、却って今の日本を取り巻く環境を客観的に見ることができる。
次々と登場するカエルの言動から「あれはあれか、これはこれだ」などと思いを巡らせながら読み進める。
最後にカエルの物語なのに、
「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。」
という一文が添えてある。
カエルの世界の世界の話なのに予防線を張ってあるのかと、ちと笑った。
物語のラストでウシガエルに弄ばれて虫の息のローラとその脇に立つソクラテスのロベルト。
本書には要所要所に挿し絵があるのだが、その最後となる挿し絵は胸にズシリときた。
そうして読み終えて最終ページをめくると「挿画 百田尚樹」とあり、思わず二度見。
挿し絵も著者で描いていたら意図を読者によく伝えられる。絵も上手なんですね。
件の最終ページの挿画、よく見ると手足がないんですよね。
ローラの最後の言葉では、瀕死であってもなお、三戒があれば大丈夫だと信じている。
盲目的な信仰、思い込み、考え直す事がないという状態はとても危険で、尚且つ、自分ではそんな状態に陥っていることに気づけないという怖さを、この最後の言葉は物語っている。
自分が不幸でもわからない。思い込みの怖さを教えてくれる。
また、櫻井よしこさんの解説が秀逸。
解説を読み、また本編を読み直してみる。